「損益分岐点は知っているけれど、結局実務での使い道って何なの?」
そんな気持ちになったことはありませんか。
損益分岐点という言葉の知名度とは裏腹に実務で使っている経営者の方は意外に少ないのかもしれません。
過去記事
で損益分岐点についてご説明してきましたが、このコラムでは実務での利用シーンとともに実務利用する際の注意点についてもお伝えしていきます。
損益分岐点のおさらい
損益分岐点売上高は、次の式で求められます。
〔損益分岐点売上高〕=〔固定費〕÷(1-〔変動費率〕)
〔変動費〕売上数量に連動して増減する費用(仕入、材料費など)
〔固定費〕売上数量が増減しても金額が変わらない費用(家賃、減価償却費・人件費など)
〔変動費率〕変動費を売上高で割った比率
〔限界利益〕売上高から変動費を差し引いた利益
〔限界利益率〕限界利益を売上高で割った比率
損益分岐点とは利益がプラスマイナスゼロとなる売上高のことを言います。
分岐点とは『赤字と黒字の分岐点』という意味ですね。
実務で使う『損益分岐点』
損益分岐点を具体的に実務でどうやって使うのかを考えてみましょう。
最初に思いつくのが、『危険度を測る2つの指標』を観測することです。
損益分岐点比率で「余裕のなさ」を見る
損益分岐点売上高が、実際の売上高の何%にあたるかを見る指標です。
数値が低いほど、売上が落ち込んでも赤字になりにくい体質といえます。
例)損益分岐点売上高:1億7千万円 実際の売上高:2億円
〔損益分岐点比率〕=1億7千万円/2億円 = 85%
安全余裕率で「あとどれだけ売上が落ちても大丈夫か」を見る
安全余裕率は、売上がどこまで減ると赤字になるかを示す指標です。
損益分岐点比率だと「数値が小さいほど良い」のでイメージが湧きにくいので、「どのくらい余裕を持って売上が上がっているか」の指標であるこの「安全余裕率」で判断すると良いかも知れません。
例)損益分岐点売上高:1億7千万円 実際の売上高:2億円
損益分岐点比率:85%
〔安全余裕率〕= 100% - 85% = 15%
この会社は、現在の売上高2億円の15%(3千万円)の売上が減ると赤字に転落します。
一般的な目安として、〔損益分岐点比率〕が80%以下なら健全、80〜90%なら要注意、90%を超えると危険水域といわれます。
(〔安全余裕率〕なら20%を切ると要注意ということになります)
ただし業種によって水準は異なりますので、自社の推移を見ることが大切です。
この例の(損益分岐点比率:85%)(安全余裕率:15%)は「要注意」ゾーンですので、打ち手が必要だと判定できます。
目標利益からの逆算
「経常利益6千万円を達成するには、売上がいくら必要か」というシミュレーションが簡単にできます。
例)限界利益率:25% 固定費:4千万円 目標利益:6千万円
〔必要売上高〕= (4千万円 + 6千万円)/ 25% = 4億円
固定費4千万円、限界利益率25%の会社は4億円の売上を上げれば目標利益の6千万円を確保できる計算になります。
実務に使うための処方箋
実務では使い物にならない『机上の空論』なのか?
各種経営指標や『損益分岐点分析』のような用語を並べられると、理論上の話という印象を強く感じて
「しょせん机上の空論だよ。」という流れになるかもしれません。
経営指標や数値分析は決して机上の空論というわけではなく、大企業のみならず中小企業でも大事なお話ではあります。
むしろ中小企業の方が数値分析の結果を機動的に活かしやすい点で、これらを味方にできれば大きなアドバンテージとなるのは間違いありません。
特に今まで売上高だけを経営指標として追ってきたような会社が数値の見方を変えたことが利益改善や資金繰り改善のきっかけとなることは珍しくありません。
ただし、役立たたせるためにはちょっとした注意点を意識した使い方が大切です。
損益分岐点分析『実務応用の注意点』
損益分岐点分析の注意点として、『固変分解』と『セグメント別管理』の2つの論点があります。
大きな論点となる2つの注意点について順番にご説明します。
『変動費』と『固定費』に分ける『固変分解』
損益分岐点分析では、費用は売上原価と販管費といった区分ではなく、『変動費』と『固定費』という区分で管理するところから始まります。
通常の決算書ではこのような区分が無いのでそのまま応用しにくい面があります。
考え方は基本的には勘定科目ごとに、「この科目は変動費、この科目は固定費」と区分すればそんなに難しいものではありません。
勘定科目で仕分けるときの注意点は?
商品販売業などは基本的に売上原価科目がそのまま変動費、それ以外は全て固定費と考えるのが分かりやすいと思います。
一方で、製造業や建設業などのように製造原価や建設原価がある業種では売上原価の中にも固定費が含まれてしまっています。
工場や建設現場で使用する機械の減価償却費などがその一例となります。
そのため商品販売業ほど簡単ではありませんが、それでも「売上数量に伴って増加していく費用かどうか」という観点で区分していくと変動費はそんなに多くはないと思います。
材料費、現場作業における外注費、製造数量に伴って消耗する消耗品や燃料費、水道光熱費などが主な内容だと思います。
その中で特に注意して区分していきたい論点をいくつか挙げていきたいと思います。
勘定科目と1対1の対応関係をキープする
勘定科目ごとに変動費と固定費を分類するとお伝えしましたが、従来の勘定科目の分類では1つの勘定科目の中に変動費と固定費が混在している場合も想定されます。
そのようなケースが想定される場合は思い切って勘定科目を分離して別々の勘定科目名にしてしまうことをお勧めします。
一つの勘定科目内に「補助科目」で分類する方法もありますが、作業効率などを考えると勘定科目を分けてしまうのが実務上最も合理的だと思います。
例えば、
『〔変動〕水道光熱費』『〔固定〕水道光熱費』
といった分け方でも良いですし、
『外注加工費』『業務委託費』
といった分け方でも良いと思います。
とにかく社内で会計処理をしたり出来上がった数値データを見る人たちが使いやすく、分かりやすく分類できれば良いと思います。
区分した科目データの管理
こうして固変分解した勘定科目の情報をどうやって管理するか、というお話です。
一番のおススメの方法は、会計ソフト内で完結する方法です。
会計ソフトによっては勘定科目マスタの中に、その科目が「変動費」なのか「固定費」なのかを登録できる機能を持つものがあります。
お勧めはPCA会計というソフトです。
このソフトなら勘定科目マスタに変動費・固定費をきちんと登録すれば自動的に損益分岐点計算や変動損益計算書の出力がワンタッチで行えます。
ただ既にご利用の会計ソフトに固変分解機能が装備されていない場合には、エクセルなどで一覧表を作っておくと便利です。
会計ソフトから勘定科目マスタ一覧をエクセルデータとしてエクスポート(出力)して、そこに変動費・固定費情報を追加する方法です。
こうした科目一覧表があれば、後で「どれが変動費だったか」を確認できますし、科目の追加時にも判断しやすくなります。
外注費・業務委託費は「何に対する支払いか」で判断する
外注費は勘定科目が一つでも、中身はさまざまです。
受注量に応じて発生する外注加工費は変動費です。
毎月定額で契約している設備点検の外注費や記帳代行などの事務や管理業務での外注費は固定費です。
契約内容まで踏み込んで判断しましょう。
水道光熱費・通信費は基本料金と従量部分を意識する
電気代やガス代は、基本料金(固定費的)と従量部分(変動費的)が混在しています。
厳密に分けるのが難しく、金額の重要性が低ければ、全額を固定費として簡便的に扱って構いません。
但し、利用料が変動的だから「変動費」、固定料金だから「固定費」というわけではないので混同しないように注意が必要です。
あくまでも『変動』とは『売上数量に連動して変動する』点に着目します。
ですから工場の稼働に応じた工場側の電気代や水道料金は変動費ですが、管理部門の事務所の電気代や水道代は毎月支払金額変動していても『固定費』です。
人件費は一律に固定費と決めつけない
正社員の給与は固定費で問題ありません。
一方、パート・アルバイトの時給、残業代、繁忙期だけの臨時人員の費用は、売上の増減に連動しやすい費用です。
これらを含めて「人件費=固定費」とひとくくりにすると、損益分岐点が実態より高く出てしまいます。
但し、明確に売上数量との関係性が明確に紐づけられていない場合には「固定費」としてカウントする方が一般的です。
業種で変わる変動費の主役と、見落としがちな費用
小売業・卸売業では仕入高、製造業や飲食業では原材料費が変動費の中心です。
また、販売手数料、クレジットカード決済手数料、出荷量に応じた運賃は、販管費の中に埋もれて見落とされがちです。
試算表の販管費内訳を一つずつ確認してみてください。
「販管費に混入する変動費は売上原価にしてしまう」という選択
商品販売業のような製造業・建設業ほど固変分解が複雑ではない業種の会社なら検討の余地のあるお話をします。
先ほど触れた「販売手数料」や「クレジット決済手数料」は販管費として計上されているのが一般的ですが、思い切って『売上原価科目』としてしまうというアイデアです。
メリットは、通常の決算書で表記される『売上総利益』がそのまま『限界利益』となる点です。
そうすれば限界利益率をわざわざ計算しなくても『売上総利益率』をそのまま流用できるからです。
「販売手数料」、「クレジット決済手数料」を勘定科目名として売上原価科目として登録し直すことも検討してみてはいかがでしょうか?
この辺は顧問税理士さんとも良くご相談の上、お決めいただけたらと思います。
重要度に応じて、どこかで割り切り、毎期見直す
すべての費用を厳密に分けようとすると、実務が回らなくなります。
消耗品費のように金額が小さい費用は、多少曖昧でも固定費に寄せて差し支えありません。
目的は会計理論上の完璧さではなく、経営判断に使える精度です。
また、外注から内製化への切り替えなどで費用の性質は変わりますので、年に一度は分類を見直しましょう。
セグメント別管理で全社統一のどんぶり勘定から脱却
限界利益率は全社統一の数値では使い物にならない
損益分岐点分析は限界利益率に基づいて行いますが、限界利益が全社で一つの指標とするのは無理があります。
商品ごとに利益率が違う場合もありますし、同じ商品でも販売先によって販売価格を変えていて利益率が異なる場合もあります。
商社向け、エンドユーザー向けでも利益率が異なるかもしれません。
こういったものをどこまで細分化するかが『セグメント別管理』です。
セグメント別管理については過去の記事も参考にしてみてください。
セグメント別管理をどのセグメントで区切りのか問題
商品別、サービス別、営業所別、得意先別、地域別、営業担当者別などセグメント別管理の区分は沢山想定されます。
但し気を付けたいのが、セグメント別管理を行うには、それぞれの区分ごとに利益を算定しなければならない、という点です。
売上高だけなら比較的セグメント別データを収集するのは簡単ですが、利益を算出するには、それに紐づく費用も分類しなければならないということです。
仕入管理や製造管理をシステム化している会社ならシステムをうまく活用すれば比較的導入もしやすいですが、システムを持たない会社がいきなりやたらに細かく細分化されたデータを取得するのは難易度がとても高くなります。
最悪は管理負荷の高さに疲弊して従来の業務に支障を来たしてしまいます。
ですから、利益率が大きく異なる項目に絞ってセグメント別管理することをお勧めします。
商品ごとに利益率が大きく異なるなら商品別に、商品点数は多くなく、むしろ客先別に販売価格差が大きい会社なら得意先別にセグメント別管理を行う、など、1つのカテゴリーに絞ってスタートすることをお勧めします。
特に『儲かっていない得意先を抽出したい』など、既に課題が見えていて、具体的な数値で可視化したいような場合には、そのカテゴリーを採用すべきでしょう。
分析結果を経営判断につなげる応用策
実務の応用例、管理手法についてお伝えしてきましたが、固変分解をセグメント別に管理できる体制が整えば、単純に損益分岐点分析をするだけでなく、他にもいろいろと応用できるようになります。
この章では固変分解したデータを保有できるようになると応用できる実例をご紹介したいと思います。
売上増加のシミュレーション
売上が上がったときに「どのくらい利益が増えるのか?」をシミュレーションすることができます。
言い換えると、変動費と固定費が分からなければ「利益がいくらになるか?」のシミュレーションをすることができません。
販売単価と仕入単価が変わらない前提で、販売数量が10%増加した場合を計算します。
〔現在の売上高〕2億円
〔変動費〕1億5千万円(75%)
〔限界利益〕2億円 - 1億5千万円 = 5千万円(25%)
〔固定費〕3千万円
〔経常利益〕5千万円 - 3千万円 = 2千万円
〔損益分岐点売上高〕3千万円 / 25% = 1億2千万円(60%)
〔売上高〕2億円 × 1.1 = 2億2千万円
〔変動費〕1億5千万円 × 1.1 = 1億6,500万円(75%)
〔限界利益〕2億2千万円 - 1億6,500万円 = 5,500万円(25%)
〔固定費〕3千万円(変わらず)
〔経常利益〕5,500万円 - 3千万円 = 2,500万円(数量増加前の1.25倍)
〔損益分岐点売上高〕3千万円 / 25% = 1億2千万円(55%)
販売数量が増えても変動費率も限界利益率も変化がありませんので、損益分岐点売上高は1億2千万円のままです。
但し、損益分岐点比率は売上が増えた分増加して少し余裕が生まれます。
販売数量と仕入単価が変わらない前提で、販売単価を10%上げた場合を計算します。
〔現在の売上高〕2億円
〔変動費〕1億5千万円(75%)
〔限界利益〕2億円 - 1億5千万円 = 5千万円(25%)
〔固定費〕3千万円
〔経常利益〕5千万円 - 3千万円 = 2千万円
〔損益分岐点売上高〕3千万円 / 25% = 1億2千万円(60%)
〔売上高〕2億円 × 1.1 = 2億2千万円
〔変動費〕1億5千万円…変わらず
〔変動費率〕1億5千円 / 2億2千万円=68%…比率は下がる
〔限界利益〕2億2千万円 - 1億5千万円 = 7千万円(32%)
〔固定費〕3千万円(変わらず)
〔経常利益〕7千万円 - 3千万円 = 4千万円(値上げ前の2倍)
〔損益分岐点売上高〕3千万円 / 32% = 9,375万円
〔損益分岐点比率〕9,375万円 / 2億2千万円 = 43%
経常利益は値上げ前の2倍となり、損益分岐点売上高は1億2千万円から約2,600万円下がり、体質が大きく改善します。
ただし、実際には値上げで数量が減る可能性がありますので、許容できる減少ラインも併せて確認しましょう。
ここで注目していただきたいのは、『同じ売上高10%増でも数量を増やして10%増加したときと販売単価を10%上げて10%増加したとき』では、利益が違うということです。
単純に売上高の増減だけを観測しても見えてこない利益への影響をきちんと把握しておくことです。
売上増の中身を把握して利益への影響額を数値で観測することが重要
利益確保のアプローチを検討する
利益を増加させるためには2つのアプローチがあります。
- 限界利益を増加させる
- 固定費を削減する
限界利益を増加させるには、更にいろいろなアプローチがあります。
- 限界利益率を上げる
- 販売単価を上げる
- 仕入単価を下げる
- 売上高を増加させる
- 販売単価を上げる
- 販売数量を増やす
販売単価を上げると限界利益率の上昇にもなり、売上高の増加にもなります。
但し販売単価を上げたことによる販売数量の減少を伴う場合もあります。
従って、限界利益率の上昇による利益増加と販売数量の減少に伴う売上高減少の両面を見ることが大切になってきます。
固定費の削減は、削減額がそのまま利益に直結する点で即効性がある利益改善策です。
売上高の増加は、販売単価を上げるなら固定費削減同様に売上増加がそのまま利益改善につながりますが、売上数量増加に伴う売上増加は限界利益率の大小に依存します。
仕入単価の圧縮も同様です。
こういった面からも、単純に売上増加を目標とするよりも費用を変動費と固定費に分解して自社の利益構造を理解した上で重点的に何に注力していくかの方針決定をした方が自社の利益改善につながりやすくなります。
セグメント別限界利益率管理による選択と集中
商品別、得意先など、自社の課題と思われる仮説に対して、本当に仮説が正しいのかを検証するために数値管理はとても重要なプロセスと言えます。
売上を最も上げている看板商品が実は一番限界利益が少なかった、ということだってあり得るわけです。
その原因が安売りし過ぎだとしたら、値上げ交渉の余地がどのくらいあるか検討しても良いですし、社内のリソースを限界利益率の良い商品にシフトしてしまった時の影響度を計ったり、自社の選択と集中の判断材料になると思います。
まとめ
- 損益分岐点分析で自社の損益の余裕度を計れる
- 損益分岐点分析で目標利益獲得の売上高を逆算できる
- 損益分岐点分析には固変分解とセグメント別管理が重要
- 分析結果で現状分析や売上増加に対するシミュレーションで経営判断材料に
損益分岐点分析は、一度計算して終わりではなく、月次の経営会議で継続して確認することで真価を発揮します。
費用の分解から月次の数値管理の仕組みづくりについて、不安や疑問をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。

