棚卸高が30万円変わると利益も30万円変わる|損益計算の仕組みと在庫管理の実践

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「決算のときだけ棚卸をすればいい」「在庫は多いほど安心」
——そう思っていませんか?

実は、棚卸の扱い方ひとつで、会社の利益が大きく変わることがあります。

「うちは小さな会社だから関係ない」と思われがちですが、製造業・小売業・飲食業・卸売業など、モノを扱うすべての業種に棚卸は深く関わっています。

このコラムでは、棚卸の基本的な仕組みから損益への影響、そして中小企業がすぐに実践できる棚卸の考え方・業種別アクションまでをわかりやすく解説します。

「なんとなくやっている」棚卸を、経営改善のための武器に変えていきましょう。

そもそも棚卸とは何か

棚卸の定義と目的

棚卸(たなおろし)とは、自社が保有している在庫(商品・製品・原材料・仕掛品など)の数量と金額を実際に数えて確認する作業のことです。

会計では、この確認作業で把握した在庫を〔棚卸資産〕と呼びます。

棚卸の目的は大きく2つあります。

  • 在庫の実態を正確に把握し、帳簿上の数字と実際の数量が一致しているかを確認すること
  • その期に「いくら売れて、いくら費用がかかったか」を正しく計算すること

特に2つ目は利益計算に直結します。

後ほど詳しく説明しますが、棚卸資産の金額をどう扱うかで、同じ売上でも利益の数字が大きく変わるのです。

棚卸資産に含まれるものとは

棚卸資産は、業種によって呼び名や内容が異なります。

主な種類を整理すると、以下のとおりです。

  • 商品:仕入れてそのまま販売する(小売業・卸売業など)
  • 製品:自社で製造して販売する(製造業など)
  • 原材料:製造に使うための材料(製造業・建設業など)
  • 仕掛品(しかかりひん):製造途中でまだ完成していないもの(製造業・建設業など)
  • 貯蔵品:消耗品など、まだ使っていないもの(業種問わず)

「うちには製品も原材料もない」という方も、事務用品の未使用ストックがあれば〔貯蔵品〕として棚卸資産になり得ます。

自社にどんな棚卸資産があるかを一度整理してみると、意外な気づきがあるかもしれません。

棚卸が損益計算に与える影響

売上原価の計算と棚卸の関係

棚卸が損益に影響する理由を理解するには、〔売上原価〕の計算の仕組みを知る必要があります。

売上原価とは、「その期に売れた商品・製品にかかったコスト」のことです。

計算式はシンプルです。

〔売上原価〕=〔期首棚卸高〕+〔当期仕入高(製造原価)〕-〔期末棚卸高〕

ここで大切なのは、「仕入れた金額」ではなく「売れた分の金額」だけが費用になるという点です。

期末(決算時点)に残っている在庫は、まだ売れていないので「次の期の費用」として繰り越されます。

この繰り越しの金額が〔期末棚卸高〕です。

【前提条件】
期首棚卸高:500,000円
当期仕入高:3,000,000円
期末棚卸高:800,000円
売上高:5,000,000円

〔売上原価〕500,000円+3,000,000円-800,000円=2,700,000円
〔粗利益〕5,000,000円-2,700,000円=2,300,000円
〔粗利益率〕2,300,000円÷5,000,000円=46.0%

もし期末棚卸高を500,000円(実際より少ない金額)で計上した場合はどうなるでしょうか。

〔売上原価〕500,000円+3,000,000円-500,000円=3,000,000円
〔粗利益〕5,000,000円-3,000,000円=2,000,000円
〔粗利益率〕2,000,000円÷5,000,000円=40.0%

棚卸高の差額(300,000円)がそのまま粗利益の差額になっています。
棚卸をいい加減に行うと、利益が実態より少なく(または多く)表示されてしまいます。

棚卸が利益を「動かす」という感覚を持つ

先ほどの計算例でわかるように、期末棚卸高が増えると利益が増え、期末棚卸高が減ると利益が減ります。

これは不正でも操作でもなく、会計の仕組みそのものです。

しかし、ここに落とし穴があります。

「今期の利益を増やしたい」という理由で在庫を意図的に積み上げると、今期の利益は増えますが、その在庫は来期に売れなければ来期の費用として重くのしかかってきます。

また、過剰在庫は保管コスト・廃棄リスク・資金繰り悪化の原因にもなります。

棚卸の数字を「正確に把握すること」が、経営の実態を正しく知る第一歩です。

中小企業における棚卸の考え方

「とりあえず年1回」から「経営管理ツール」へ

多くの中小企業では、棚卸は「決算のために仕方なくやるもの」という位置づけになっています。

しかし、棚卸を経営管理の視点で活用すると、次のようなことが見えてきます。

  • 売れ残り商品・動きの悪い在庫の把握(不良在庫の早期発見)
  • 仕入れタイミング・発注量の最適化
  • 資金が在庫に「眠っている」状態の可視化
  • 粗利益率の正確な把握による価格戦略の見直し

年1回の決算棚卸だけでなく、月次や四半期での簡易棚卸を習慣にすることが、経営数値の精度を高め、タイムリーな意思決定につながります。

在庫は「資産」であり「リスク」でもある

会計上、在庫は〔流動資産〕として貸借対照表(バランスシート)に計上されます。

つまり、在庫は「会社の財産」として扱われます。

しかし、実態として在庫は「まだ現金に変わっていない資産」でもあります。

在庫が増えるということは、その分の現金が商品・原材料に姿を変えているということです。

在庫が増える = 現金が減る(資金繰りが苦しくなる可能性がある)

売上が好調なのに資金繰りが苦しい、という状況は「在庫の膨らみ」が原因のひとつであることも少なくありません。

在庫を『指標で見る』習慣

在庫が適正かどうかを判定する方法の一つとして、指標を観測する方法があります。

指標の良いところは他社との比較ができるという点です。

自社の棚卸がどのような状況にあるかを数値で判断できるのは一つの目安として大変有効な手段となります。

今回は2つの指標をご紹介します。

在庫がどのくらいのスピードで現金に変わっているかを測ることができます。

決算書があれば簡単に計算できますので、自社の数値でその状況を確かめて見て下さい。

棚卸回転率

〔棚卸回転率〕は1年間に在庫が何回入れ替わったか(売れたか)を示しています。
入れ替わりが多い(数値が高い)ほど効率的に運営できていることになります。

【棚卸回転率の計算式】(年間売上原価/年間平均在庫)
【指標の意味】棚卸資産(在庫)が1年間に何回転するか
【指標の見方】数値が大きい(回転率が高い)ほど資金効率が良い

【前提条件】
年間売上原価:6,000,000円
平均在庫金額(期首+期末÷2):1,000,000円

〔在庫回転率〕=売上原価÷平均在庫金額
=6,000,000円÷1,000,000円=6回転

これは「在庫が1年間で6回入れ替わった」ことを意味します。
回転率が高いほど、在庫が効率よく現金に変わっている状態です。

業種・商品によって適正な回転率は異なりますが、前期比で回転率が下がっていれば「在庫が動きにくくなっている」サインと読み取れます。

棚卸回転日数

〔棚卸回転率〕は「仕入れてから売れるまで何日かかるか」を表しています。
短いほど資金効率が良いことを示しています。

【棚卸回転率の計算式】年間平均在庫/(年間売上原価/365)
【指標の意味】棚卸資産(在庫)が現金化されるまでの日数
【指標の見方】日数が少ないほど資金効率が良い

【前提条件】
年間売上原価:6,000,000円
平均在庫金額(期首+期末÷2):1,000,000円

〔在庫回転日数〕=年間売上原価/平均在庫金額
=1,000,000円/(6,000,000円/365日)=61日

これは「61日で在庫が1回入れ替わった」ことを意味します。
回転日数が短いほど、在庫が効率よく現金に変わっている状態です。

業種・商品によって適正な回転日数は異なりますが、前期比で回転日数が伸びていれば「在庫が動きにくくなっている」サインと読み取れます。

指標を把握して業界水準との比較をする

過去のコラムでご紹介した『経営自己診断システム』を使えば在庫の回転率が業種ごとにどの程度の数値なのか、目安や自社のポジションが分かります。

経営自己診断システム診断結果_ページ_4

上記の診断レポート内に中小企業の製造業(電子部品・デバイス・電子回路製造業)では棚卸資産回転日数の業界標準値として

〔中央値:12.62日〕〔上位30%値:2.35日〕

となっています。

業種別の具体的なアクション

小売業・卸売業の棚卸アクション

小売業・卸売業では、商品の種類が多く、棚卸の手間が大きくなりがちです。

以下のアクションから始めてみてください。

  • ABCランク分析の導入:売上構成比の高い商品(Aランク)・中程度(Bランク)・低い商品(Cランク)に分類し、Aランク商品だけでも月次棚卸を実施する
  • 不動在庫リストの作成:3ヶ月・6ヶ月動きがなかった商品を定期的に洗い出し、値引き処分・返品交渉などを早めに判断する
  • 発注点の見直し:「なんとなく発注している」ではなく、販売実績データをもとに適正な発注量・発注タイミングを設定する

在庫を減らすことへの抵抗感がある経営者の方も多いですが、適正在庫を維持することが資金繰りの安定に直結します。

製造業・飲食業・建設業の棚卸アクション

製造業・飲食業・建設業では、原材料・仕掛品・食材など、状態が変化するものを扱うため、棚卸の難易度が上がります。

それぞれのポイントを押さえておきましょう。

  • 製造業:仕掛品の評価基準を明確にする。「どこまで進んでいれば何パーセント完成とみなすか」を社内でルール化し、担当者によってバラつきが出ないようにする
  • 飲食業:食材は腐敗・期限切れによる廃棄ロスが損益に直結する。週次または月次の棚卸で廃棄額を把握し、仕入れ量・メニュー構成を見直すサイクルを作る
  • 建設業:工事ごとの原材料・労務費の使用状況を管理し、工事別の原価を把握する。完成前の工事は〔未成工事支出金〕として棚卸資産に計上されることを意識する

棚卸管理をする上での注意点

棚卸管理の効率だけを追求すると、顧客の要望にタイムリーに応えられず機会損失につながる恐れもあります。

現場の肌感覚を無視して効率だけを追求することがないよう現場の意見も聞きながら再構築することが大切です。

その上で、どの業種においても共通して言えるのは、棚卸のルール・評価基準を社内で統一することが正確な経営数値につながるという点です。

「担当者によって数え方が違う」「評価基準があいまい」という状態では、せっかく棚卸をしても信頼できる数字になりません。

まずは自社の棚卸の手順を文書化することから始めてみてください。

まとめ

  • 棚卸とは、自社が保有する在庫の数量と金額を実際に確認する作業であり、商品・製品・原材料・仕掛品などが対象になる
  • 〔期末棚卸高〕は売上原価の計算に直接影響するため、棚卸の正確さが損益計算の信頼性を左右する
  • 在庫は会計上「資産」だが、現金が商品に姿を変えた状態でもあり、過剰在庫は資金繰り悪化の原因になり得る
  • 〔在庫回転率〕などの指標を使って在庫の動きを定期的にチェックする習慣が、経営改善の第一歩になる
  • 業種ごとに棚卸のポイントは異なるが、「社内でルールを統一すること」はすべての業種に共通する大切なアクションである

棚卸の仕組みや自社の在庫管理に不安を感じている方、もっと経営数値を活用したいとお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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