「一人経理」の課題に向き合う|リスク論だけでは語れないその本質

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「経理は〇〇さんに任せているから大丈夫」

そう言い切れる会社ほど、実は危ういのかもしれません。

これまで「一人経理」というテーマは、会社側の視点から語られることがほとんどでした。

属人化のリスク、退職されたときの引き継ぎ問題、不正が起きやすい環境――。

どれも経営者にとって重要な論点ですが、そこには一つ、抜け落ちている視点があります。

それは「一人で経理を担っている本人が、何を抱えているのか」という視点です。

このコラムでは、あえて主語を経営者から経理担当者本人へと移し、一人経理という働き方の内側で何が起きているのかを一緒に考えてみたいと思います。

「聞ける人がいない」という孤立

質問しても、的確な答えが返ってこない現実

一人経理の担当者が最も日常的に直面する困難は、些細な仕訳判断や税務上の解釈に迷ったときに、社内に相談できる相手がいないという事実です。

例えば「この交際費は損金算入できるのか」「この支払いは資産計上か費用計上か」といった判断は、経験の浅い担当者にとって決して簡単なものではありません。

しかし多くの中小企業では、上司や経営者自身が経理の専門知識を持っていないため、質問をしても的確な答えが返ってこないケースがほとんどです。

「そこは任せてるから、よろしく」という一言で片づけられてしまうことも少なくありません。

溜息をつく女性社員

顧問税理士が良き経理部長役なら

大抵の会社では顧問の税理士事務所担当者が月に1回とか3ヶ月に1回の頻度で企業を訪問し記帳指導や帳簿のチェックをしてくれます。

聞きたいことがあれば、電話やメールで質問にも答えてくれるでしょう。

それにもかかわらず、「聞きたいことが聞けない」という現象がおきるのでしょうか?

一つ目は、気軽に聴ける環境が無い、ということだと思います。

私の娘は大手システム会社でSEをしていましたが、新卒で入社した時期がコロナ禍だったため、入社早々にリモートワークとなりました。

同じ業務をしている同僚が沢山いる環境に身を置いてにも関わらず、質問があっても上司や先輩にオンラインをつなぐアポイントを取ってから、といった感じで気軽に質問できる環境がありませんでした。

段々と責任が重くなる環境と相まってメンタルの不調をきたすようになりました。

コロナ禍が明けて出社回帰になった環境はこのような状況の改善に一定の効果があったのかもしれません。

相談する女性社員

顧問税理士さんは、これと似た構造な気がします。

頼りになる一方で、隣の席に座っていつでも気軽に質問できる環境とは異なり、質問へのハードルが自然と上がっていく状況があるように思います。

自己流の処理が積み重なっていく先にあるもの

相談できる相手がいない状態が続くと、担当者は自分の判断だけを頼りに、自己流で処理を積み重ねていくしかなくなります。

最初のうちは慎重に調べながら対応していたとしても、日々の業務に追われる中で、次第に「前回もこうしたから、今回もこれでいいはず」という判断基準に頼らざるを得なくなっていきます。

これは担当者の怠慢ではなく、確認する手段そのものが会社の中に用意されていないことが原因です。

誰にも検証されないまま処理が積み上がっていく構造こそが、後の大きな問題の芽になっていきます。

私は税理士試験の勉強や会計事務所の実務で沢山の税法や会計理論を繰り返し勉強してきました。

ですから「これ、合ってるかな?」とつまずくことも少ないですし、仮に不安なことがあっても『よりどころ』となるものが何なのかを紐づける習慣が染みついていました。

しかしながら、OJT中心で実務を磨いてきた人にとっては「初めて出くわす現象への対応力」はそれほど高くありません。

不安とのせめぎ合いが起きているのです。

それを「勉強不足」とか「努力が足りない」と一種するのは簡単ですが、その人の立ち位置も良く考えてみる必要もありそうです。

「割に合わない」という実感 ― 責任とプレッシャーの不均衡

一手に引き受ける、ミスが会社の損害に直結する業務

一人経理の担当者が扱う業務範囲は、想像以上に広いものです。

資金繰りの管理、税務申告、給与計算、社会保険の手続き、法改正への対応など、どれもミスをすれば会社に実損が発生する業務ばかりです。

担当者一人の年収を優に超える金額のリスクを、たった一人の判断と処理能力に依存している状態だと言えます。

評価されない、非対称な構造

これだけの責任とリスクを背負っているにもかかわらず、一人経理の担当者の給与水準や社内評価が、その重さに見合っていないケースは決して珍しくありません。

うまく回っているときは「当たり前」として扱われ、何か問題が起きたときだけ「担当者のミス」として責任を問われる。

この非対称な評価構造こそが、担当者の「割に合わない」という実感を静かに積み重ねていく原因になっています。

孤立が生む”防衛的な抱え込み”という現象

「自分にしか分からない」が、唯一の安全保障になる

ここまで見てきたような孤立とプレッシャーの中に置かれ続けると、一部の経理担当者は、自分の身を守るための行動を取るようになります。

それが、業務をあえて可視化せず、自分の中に抱え込むという選択です。

マニュアルを作らない、業務フローを共有しない、自分だけが分かる形で処理を進める。

これは怠慢や隠蔽の意図というより、「自分にしか分からない状態」を保つことが、会社の中で自分の立場を守る唯一の手段になってしまっているからです。

代わりのいない存在であり続けることが、結果として本人にとっての交渉力であり、雇用の安全保障になっているのです。

個人の資質ではなく、環境がつくる構造

この現象を「あの担当者は独占欲が強いから」「性格の問題だ」と捉えてしまうと、本質を見誤ります。

周囲が経理という業務の中身を理解しようとせず、「任せているから」と関わることを避け続けてきた結果として、この構造は生まれています。

言い換えれば、抱え込みは個人の資質の問題ではなく、環境要因によって形づくられたものだということです。

誰かを責める前に、なぜこの構造が生まれたのかを冷静に見つめ直す視点が必要です。

経営者・上司が「腰が引ける」現実

詳しくないから、踏み込んで確認できないというジレンマ

一方で、経営者や上司の側にも事情があります。

経理の専門知識がないために、担当者の説明が正しいのかどうかを確認する術がなく、たとえ違和感を覚えても踏み込んだ質問ができない。

「本当にこの処理で合っているのか」と尋ねたくても、専門用語で説明されると、それ以上追及できずに引き下がってしまう経営者は少なくありません。

固定化していく悪循環

さらに、多くの経営者の心の中には「機嫌を損ねて辞められたら困る」という不安があります。

代わりのいない担当者に強く出られない、という弱みは、経営者側にも、担当者側にも、意識的・無意識的に共有されています。

この力学が働き続ける限り、業務のブラックボックス化は解消されるどころか、年々固定化していきます。

誰も悪意を持っていないにもかかわらず、構造だけがじわじわと会社のリスクを大きくしていくのです。

一人経理の課題解決の第一歩

このように構造上の理由から会社のリスクや弊害が生まれる可能性を充分に理解しながら、いきなり解決するのではなくても緩和の方向に持っていくことはできると思います。

まずできることは、「任せてるから」と逃げ口上で見ぬふりをせず、積極的に関与することから始めてみると良い共います。

困っていること、不安に思うことを充分に聞いてあげる。

そこから始めてはいかがでしょうか?

シニアメンバーに話をする女性社員

まとめ

一人経理という働き方の中には、経営者側から見えるリスクだけでなく、担当者本人が抱える孤立と重圧という、もう一つの現実があります。

この構造を、担当者個人の我慢や善意に依存したまま放置してしまうと、いずれ立ち行かなくなります。

  • 一人経理の担当者は「聞ける人がいない孤立」の中で、自己流の判断を積み重ねざるを得なくなっている
  • 背負う責任とリスクの大きさに対して、給与や評価が見合わない非対称な構造が存在する
  • 孤立とプレッシャーの中で、「自分にしか分からない状態」を守ることが、担当者にとっての唯一の防衛手段になっている場合がある
  • これは担当者個人の資質の問題ではなく、周囲が経理を理解しようとしてこなかった環境要因である
  • 担当者を孤立させない仕組みをつくることが、結果的に会社そのものを守ることにつながる

その仕組みづくりの選択肢の一つとして、税理士や経理アウトソーシングといった外部の専門家を担当者にとっての「逃げ場」や「相談相手」として位置づけるという方法があります。

社内に閉じた一対一の関係ではなく、第三者の視点が入るだけで担当者の孤立は大きく和らぎます。

自社の「一人経理」の状態に不安を感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。

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